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2020/01/20 15:05

2020年1月10日、「デザイン×認知症」をテーマにトークセッションを行いました。 3人のゲスト、丹野智文氏(認知症当事者・おれんじドア代表)、下河原忠道氏(株式会社シルバーウッド代表取締役)、田中美帆氏(株式会社cocoroé代表・多摩美術大学講師)をお迎えし、モデレーター徳田雄人(株式会社DFCパートナーズ)で進行したレポートです。 前後編、合わせてご覧ください!



第1部:トークセッション「デザイン×認知症」


徳田:まずは、認知症当事者をめぐる暮らしのなかの困りごとの事例をお伝えして、フリートークに入りたいと思います。 買い物の場合は、お店まで行けない、支払いに時間がかかる、セルフレジを使えないなどがあります。また、自宅ではデザイン性高いオシャレなボトルが増えたことで、洗剤をジュースだと思って飲んでしまうケースも実際に起きています。 空間のデザインでいうと、ショッピングモールで迷ってしまう、レジで精算を忘れて警察沙汰になる、というのも一種のデザインの問題といえるでしょう。移動の際も、電車やバスなどのシステムが使いづらいこと、そして、銀行ATMの使い勝手、パスワードを忘れてしまうなども似た課題であると思います。 共通しているのは、「認知機能の低下と環境の変化」ですが、特に“環境の変化”については、高齢の人が使いやすいシステムになっていれば、少しでも今までの暮らしを続けられるはずです。“環境の変化”としてデザインができる部分があるのではないか、ということを、今回みなさんと考えてみます。
モノ、サービス、まちのデザインなど、今日は幅広く、デザインをキーワードに語りたいと思います。 
    


周囲の考え方、とりまく環境を変えていきたい


徳田:認知症とデザイン、みなさんは何が浮かびますか?

丹野さん:最近、認知症バリアフリーと言われますよね。車椅子の人のバリアは段差かもしれないんですけど、認知症のバリアって、実は“人”なんですよ。今、日本で起きている現実は、認知症の人を一人で外出させない。認知症の人に自分のものを使わせてくれないっていうのがあるんじゃないかと思いますね。だから、当事者が自分の財布を持たせてもらえる環境、一人で外出できる環境が、なければいけない。

徳田:モノのデザインも大事だけれど、とりまく人の考え方を一緒に変えていくことが大事ということですかね。

丹野さん:そうなんですよ。僕はやっぱり、認知症の人ももっと失敗するべきだと思うんです。私はいっぱい失敗するから、自分にはこれが必要だなと気づけるけれど、多くの認知症の人は家族が居ないと何もできない依存状態になっているので、困ったことに気づけない。もっと当事者が自分でまちに出て、困ったことに気づけることが大事かなと思います。

下河原さん:私は高齢者住宅の運営をしているんですけど、認知症の人とこだわらずに、誰にとっても心地よい空間をつくるデザインが大事ではないかなと思うんですよね。というのは、認知症の人のための建築などのプレゼンを見ると、明確な色の区別をしたトイレや壁の配色が強調されているんですが。確かに、わかりやすいかもしれない。けれど、人としての心地よさが削がれていくような気がしてしまうんです。

田中さん:私は多摩美術大学でソーシャルデザインを専門にしていますが、認知症にやさしいデザインが世界中に多くあるが、日本にはまだ入ってきていないことがもったいないなと感じています。デザインの専門家が認知症の人と出会う機会がないので、何が問題なのか理解できず、仕事として携わる機会がないんですね。「認知症=負」のイメージの人が多いので、意識変容ができないとデザイナー業界も参画しづらい。その部分にチャレンジしたいと思っています。


意識変容の重要性


下河原さん:田中さんが仰るように、認知症の人と一般の人が関わる機会が少ないというのは、その通りです。普段から、地域の人と関われる状況をつくることが大事だと思っています。鍵をかけて閉じ込めてちゃだめだと思いますね。
僕は、バーチャルリアリティ(VR)を使って認知症のある人たちの世界を忠実に再現する「VR認知症体験会」をやっているんですけど、想像する認知症の怖さがVRを通した体験で変わる瞬間があるんですね。今までの常識と違う体験をすることで認知症の人が特別ではないという意識が変わることが大事だと感じます。

田中さん:インクルーシブデザインの場合、極端ユーザー(高齢者、子供、障がい者)が使いやすければ、大勢にとっても使いやすいはずというコンセプトのデザインの考え方なんです。認知症未来共創ハブのホームページで「デザイン」をテーマに連載中で、ここに海外を含めた事例が出ているので、ぜひご覧いただければと思います。

※認知症未来共創ハブ「認知症+DESIGN 認知症のためにデザインは何が可能か」より

《 具体的な事例紹介 》
・食事や食器:工夫を凝らした食器やテーブルマット、厚手の材質によって料理や包丁も使える手袋、水分補給用のタンブラー(家族の声で水飲みましょうと再生)、フルコースを楽しめるレシピ本(フォーク・ナイフがなくても楽しめる調理方の提案)
・アイテム:時計(スケジュールを教えてくれる)、アルツハイマーソックス(英:毎年おしゃれなデザインで左右違う色の靴下を発行。両足の色の違いから話題づくりになることがポイント)、ファッションブランド(英:エイブルレーベル。ボタンがなく目印となるマジックテープで着脱)
・移動に関するもの:Opal(シドニー:年金受給者へ公共交通カード配布)、コミュニティトランスポート(タクシー×コミュニティボランティア=近所の人とグループショッピングツアー)、スローショッピング(英:店舗内にイスを置く、BGMを消すとコミュニケーションがうまれ、おしゃべりを楽しみに来る客も多い。従業員満足感が高まった)
・その他:ネイルアート(インクジェットシート、孫とお出かけしたい声からスタート)。訪問カット(英:BGMやサッカーの話題などコミュニケーションを工夫した認知症の人への理髪師訪問)


丹野さん:欧米は自分で決断して実行する文化、日本は察してあげる文化ですよね。周囲が察して勝手に薦めて、運動しながら100引く3は?とか計算させられて、本人が嫌がる(会場笑)。自分もヨーロッパ行って見て来ましたけど、GPSも当事者が納得して自分で持っていくんですよ。日本は家族が「認知症に良いから」とサプリや脳トレを強制されて、ウツ状態になる人が多いです。だから、本人が決めることが大事だと思うな。

下河原さん:聞いてて思い出したんですけど。沖縄の離島でね、認知症のおばあが目が見えにくくなって買い物が難しいという時に、地元の若者が考えて、おばあの家とスーパーをつなぐ白線を道路に引いて、買い物ができるようになったという話があったんですね。これって、本人が望むことを周囲が助けるということで、ありがた迷惑的なものよりも、デザインとしての正解はこの形ではないかな〜と。

丹野さん:以前、長野へ行った時にハルコさんという認知症の方に会って、薬を飲み忘れてしまうことが増えたので訪問介護を入れようか悩んでいるという話を聞いたのね。それで、その場で俺が、ハルコさんのガラケーに「薬飲むんだよー」とメッセージ入りでアラーム設定してあげたの。そしたら、俺から毎日メール来て「あの人優しいね」と思ってくれたみたいで(笑)。そういう、今あるものをどう生かすかも大事だと思う。
あと、ヨーロッパ行った時に、透明な扉の冷蔵庫があって、なんで日本にないのかなと思って。俺がデザインしたことにして日本で売ろうかな(笑)。中に何が入ってるかわかると、同じものを買ってくるのを防げるよね。
それと、視覚障がい者向けの時計を認知症の人が使っているケースもある。声で時間を教えてくれるから。「他の障がい者向けのものも、使えるものは使えばいいよ」って外国の当事者の人たちが教えてくれたの。そういうのもいいかなと思ってます。



認知症の人のため? or 誰もが心地よいもの?


徳田:そろそろ時間も近づいて来たので、前半のまとめに入ります。今回、出て来た内容は、社会全体の意識を変えていくことが大事ということですね。ただ、全体の意識を一気に変えることは難しいので、例えば、一つの商品を切り口に、関係者や接点のある人に自分ができることに気づいてもらうことも大事かなと思いました。
それでは、これからのために。日本流として、どんなことをしていけば社会が変わるでしょうか。それぞれお願いします!

丹野さん:まず(認知症の)本人に聞くことが大切! その聞き方が大事なんです。多くの人は直球で、「何に困ってるの?」と言うから、答えられない。いきなり認知症の話題から入るから答えられなくなるんです。
私が当事者と話す時には、まず話しやすい話題から入ります。「この地域で、何か美味しいものある?」と聞くと答えてくれる。「それを最近食べてる?」と聞くと「食べてない」と言われるから、「なぜ?」と聞くと、「認知症になったから」と認知症の話題になっていく。そうやって、話しやすいコミュニケーションのとり方をまず考えて接することで、何か変わるかなと思います。

下河原さん:「わたし認知症になったこと忘れてた」と言った当事者の人もいるんです(笑)。認知症の人と構えて接するから、普通に接することができなくなるんじゃないかな。施設では、なぜか同じユニフォームを着ると、急に認知症の人に対してぎこちなくなったりするでしょ。「認知症の人」と「そうでない人」を区別しないことが大事だと思います。そこを変えないと変われない。工夫やデザインは大切ですが、どうすれば区別しないでいられるかを、いま考えています。

田中さん:美大生で認知症の人と接点がなくて課題に気づけないという学生も多いんです。けれど、祖父母が認知症というケースも結構多いんですね。デザインっていうのは、ポスターや映像を作るだけではなくて、目の前の課題を解決する力があるということを知って欲しいと思います。ソーシャルデザインとして、自分の力を発揮してほしいですね。

徳田:いろいろな視点に気づくセッションになりました。たくさんのお話、本当にありがとうございます。
認知症に向けたデザインもあるし、認知症かどうか関係なく居心地が良いという視点も大事だなということを改めて感じました。