dfshop

2020/01/21 19:17

第2部:財布プロジェクト報告会


株式会社DFCパートナーズで財布プロジェクトのリーダーをしている清水祥子と申します。
この度、dfshopが開発した「 niho 小銭が取り出しやすい財布」が誕生するまでのお話をさせていただきます。



世の中にない。それなら自分たちで作ろう!

2018年10月、商品開発プロジェクトがスタートしました。始めたきっかけは、私の父が認知症であることが大きかったのですが、認知症の父が生活の中で必要だと思う商品を探しても売っていない、探すことができなかった、ということが大きな理由です。
診断を受けて7年の父は、現在も介護を必要とせずに自宅で生活を続けています。ただ、アルツハイマー型認知症なので、新しいことを覚えることが難しいのですが、記憶を補うことができれば日常的な生活はほとんど支障なくできる状態です。

父のこともありdfshopで働くことになったものの、本来たくさん取り扱いたい「生活便利グッズ」が少ない現状がありました。現在、「認知症 商品」と検索すると、徘徊防止や見守りグッズがほとんどです。認知症の本人が使うという前提の商品がありません。
ないならば自分で作ってみたい! との思いから、この商品プロジェクトが始動しました。


なぜ、財布なのか?

認知症の人が使う商品開発を、何から始めるか。カバンや手帳などの候補もあったなかで、財布開発から始動した理由は、一番生活に結びついていると感じたからです。
父は定年退職後、69歳の時にアルツハイマー型認知症と診断されました。私が父と一緒に暮らすなか、家族と一緒にご飯に出かけたり、バスや電車に乗る時に、父がお金を払うことが日常としてあります。その際、支払いに迷っているなという場面が増えきました。
支払いの時に、小銭を持っていてもお札だけで支払うことが増えていること。それでも、落ち着いて支払える場面では、普通に小銭を使って支払っているので、小銭を出したくないわけではないこと。また移動中に、自分の荷物の中に財布が入っているか、何度も繰り返し確認するようになった点も見受けられました。
そういう場面で、一緒にいる母や私が手を貸そうとすると、父はすごく嫌がります。そんな時に、財布が使いやすくて、記憶を補える機能があれば、私たちが手を貸さなくても父自身で支払いができるのではないかと思ったことが商品開発のきっかけです。

最近は、キャッシュレス化が進んでいるものの、父のような高齢者が財布を持ち歩かないことはないと思うことと、私もまずは財布だけ持って出れば外出も安心という気持ちがあるので、生活必需品の財布から開発を試みました。


見えにくい認知症の社会課題

ある調査では、日本には現在、約500万人の認知症の人がいて、その中の約7割の人が自宅で生活しています。また、認知症になることで外出の機会が減ってしまったという人も半数を超えています。
外出時にちょっとしたミスをすると、人から変な顔をされることがありますが、認知症かどうか見た目だけでは全くわからないためよけいに嫌な気分になるのかもしれません。父も外出先で失敗が増えると、それを理由に活発な父でも外に出る機会が減っていきました。

もしも、使いやすい財布があり、外出の機会が増えていけば、認知症になっても生活がしやすいはず。認知症になっても出かけやすい社会につながる商品が大切だと商品コンセプトが決まりました。



みんなで考えることからスタート

財布の開発にあたり、多くの人とアイデアや意見交換する機会を求めてアイデアミーティングを2018年12月に実施しました。当日は、医療福祉関係者や当事者家族、学生、ものづくり関係の人など15名に参加いただきました。
参加者みんなで、財布についての困りごとを書き出し、その課題を解決する構造の財布をグループに分かれて考えていただきました。提案されたアイデアは次の通りで、私だけでは思いつかなかったアイデアがたくさん出ました。

1、探せる財布=財布にQRコードが付いていて、スマホのSiriなどに「財布どこ?」と聞くと位置情報を教えてくれる。
2、新商品を使うための工夫=昔ながらの懐かしい手に馴染む生地を使いつつ高機能な財布。継続して使ってもらう工夫としてお孫さんから使い方を教わりプレゼントする。
3、小銭が貯まる課題=小銭が貯まっても良い財布(逆両替機を銀行に設置してもらい、どんどん貯めてもらう)、小銭が可視化できる財布(透明生地で作り中身が見える)、一緒に支払いができる財布(小銭部分が大きく開くことでレジの人に手伝ってもらいながら支払える)

これらのアイデアから、「一緒に支払いができる財布」という、レジの人と一緒に支払いができる要素が盛り込まれた財布に絞り込みました。これなら、父もお店の人に手伝ってもらいながら使いやすい財布になるかもしれないという気持ちからです。
まずは私が簡単に試作品を作りました。




認知症の人が集まる場へ

東京都町田市で認知症当事者が集まる「町田女子会」というものがあり、意見を伺いに行きました。
まず、みなさんに財布についての困りごとを訪ねると、「小銭を出すのが面倒でお札ばかりで払ってしまう」だとか「一円玉と百円玉の色が似ていて見分けがつかず迷ってしまう」、とか、ご家族に財布を取り上げられてしまって持っていないというお話もありました。
それで、「どんな財布なら持ちたいですか?」と伺うと、持ち歩きやすいものであまり大きくないサイズ、色は明るめが良いかも、などの意見が集まりました。それらを参考に試作品を改良していき、いろいろな財布を集めたりして財布の形を絞り込んでいきました。




現場でつかんだ使いやすさ

いろいろな財布の形を試す中で、実際に当事者にも使ってもらいました。これは、私が福井にも住んでいる関係で知り合った方とスーパーで財布を使ってもらった際の写真です。
福井の県民生協が運営しているグループホームにお住まいの当事者の方で、このプロジェクトに関心を持っていただいた方がいて、県民生協のスーパーでイメージに近い財布を試しに使っていただきました。この方は、普段、小銭を出すことに手間取ってしまうと話していたのですが、この財布を使うと、213円のチョコレートをぴったり小銭だけで払ってくださったんです。

後日、私の父にも同じ財布を使ってもらったところ、普段はお札だけで支払うことが多い父がお札と小銭の両方を使っていました。
それまでいろいろな財布の形を試したものの、実際にスムーズな支払いができた姿を目の当たりにしたことで、こういう形が使いやすいのだなと確信に変わりました。

その後、製品化に向けて業者に依頼し、本格的な試作品を改良。大きさや色、素材について修正しながら、現在のデザインに行き着きました。



プロジェクトを進めるにあたり“自分で”使える財布プロジェクトとして、クラウドファンディングを行い、2019年7月、多くのご支援を受け目標金額を達成することができました。
実際に、クラウドファンディングを通して想像を超える方々に賛同をいただき、このテーマが間違いではないとことが実感して進むことができましたこと、改めてお礼を申し上げます。




デザインロゴについて

nihoというブランドは、今回のプロジェクトで誕生しています。デザインロゴの制作に尽力いただいたロゴ制作会社の「MATT合同会社」のみなさんと一緒に進めていきました。今回このイベントのために、わざわざ福井県小浜市から起こしいただいたので、MATTの前田愛さんにもご登場いただきます。

最初に、なぜロゴ制作をお願いしたかというと。私が福井が好きになり住むようになって、知り合いの福井のライターさんにつないでいただいた方が前田さんでした。
前田さんのお姉さんに重い障がいがあり、以前、前田さんが車イスデザインの会社に勤務していたこともあって、認知症と障がいで分かりあえることがあるかもしれないと紹介いただきました。昨年、初めて会った時には、初めてあった気がしないなと思って(笑)。その後、コンセプトに共感いただき、ロゴ制作を依頼しています。

〔 ネーミング 〕
踏み出す最初の一歩 二歩(にほ)があって 三歩(散歩)につながる。
一歩目を踏み出した人のお手伝いになるような、軽く、楽しく、自由なものに。
という想いを込めました。
〔 ロゴマーク 〕
しっかりと大地を踏みしめながら、足取り軽やかに外出できる嬉しさを表現しています。大地はどこまでも続いていて、歩くひとを暖かく見守ってくれています。

清水:ロゴを依頼されたとき、どういうふうに思われましたか?
前田さん:正直、認知症というのはあまり関わりがなかったんですけども。初めて清水さんにお会いして、とても自然体な方で(笑)。商品開発って、意気込みがある場合が多いんですけど。すごく自然体だなと思ったのと。
私は、7年間車イスのデザインをしていたんですけど。若い頃の私は、車イスはカッコ良くてオシャレなものがないから、今の車イスはダメだと思って製品開発をしていたんですけど。成長していくにつれて、歩けない人が外に行くための素晴らしい手段だなと気づいたんです。車イス自体があることで、その人の生活を広げられるという素晴らしいものと気づいたんですね。私は、普通の人も乗りたくなるスタイリッシュな車イスを作りたいという思いだったのですが。今回も、認知症の人のための商品を使いやすくということで、便利さだけでなく、人の生活に彩りを与えられる商品になればいいなと思いました。
清水:ロゴ依頼の際にお願いしたことは、一般に浸透している認知症のイメージではないものということと、外出したい思いを込めてもらいたいという点でした。それまで、認知症と関わりなかったということですが、イメージはどういうものがありましたか?
前田さん:イメージですか? あまり深く考えたことはなかったので。ユニバーサルデザインと違うんかなと思いますね。全ての人に優しい、特別な人という意識がなくて、境い目がない。私は、障がい者とか悪いイメージはなくて、むしろ好き(笑)。

清水:nihoというネーミングが決まるまでを教えてください。
前田さん:他のスタッフとも話し合って。外に行こうという思いを無理やり押し付けるのは違うなと。ご自身が外に行きたいと思った時に、そっと周囲が手を差し伸べるような、そんんな思いが伝わるネームが良いなと思って。
踏み出した一歩から二歩になり、散歩に出かけられるというような所になりましたね。選ばれた時は一番気に入っていたものだったので、「ヤッターっ!」てなりました。
ロゴ制作って、普段はすっごい苦しんだり考えて、出産みたいなんですけど。今回に関しては、重さが出たらダメだなと思って。苦しまないようにと、軽さを大切にしました。
だから、大変にならないようにということを、今までで一番意識したので、すごく楽しかったです! 清水さんと私の思いが通じるものがあったので、自然な寄り添う気持ちが表せればいいなと思って作りました。
清水:短い時間ですが、どうもありがとうございました!!


完成した財布の特徴

2019年12月、niho小銭が取り出しやすい財布が完成しました。
大きなポイントは、「取り出しやすさ」「探しやすさ」「分かりやすさ」です。1回ボタンを開けると財布中身全てが確認できます。カバンやベルトから探しやすいようにリングを付けました。そして、クリア窓が内と外にありメモやヘルプカードを入れて外出時の連絡先やコミュニケーションをわかりやすくしています。



《 財布特徴 》
⑴ ベースカラー
 男性でも女性でも持ちやすい明るめの茶色。カバン内でも見つけやすい配色です。
⑵ 二つ折り
 後ろポケットや上着のポケットにも入るよう、二つ折りの財布にしました。本革なので、おしゃれに持ち歩くことができます。
⑶ 表面ボタン
 開封する場所をわかりやすくするため正面にスナップボタンを付けました。
⑷ 受け口ボタン(内側)
 中身の分量によって2段階調整できるボタンを配置しています。
⑸ カードポケット
 カード入れ部分を明るめの色にすることで、外側と内側の機能の違いを色で見分けられ、開封時の目印にもなります。
⑹ ガバッと開く
 財布を開いた時に、小銭とお札とカード、全部が見えるようになっています。アルツハイマー型認知症の場合の記憶を補う部分としてこの形にしました。一般の財布は、小銭とお札入れが違う場合もありますが、開いた時に全部見えれば、あちこち開く必要がありません。小銭入れも広く、手を入れて小銭を探しやすくなっています。
⑺ カード入れ
 仕切りは混乱を防ぐため最小限にして、よく使うカードと、あまり使わないカードで分けて入れることができます。ちなみに、多くの財布はクレジットカードは入るものの、名刺サイズの大きさが入らないことが多いのですが、nihoの財布は名刺や診察カードなどの大きさも入るカード入れにしています。
⑻ クリア窓(内・外)
 クリア窓をつけたカードポケットを内側と外側に付けました。財布を取り出した時に、カードが見える外側にはヘルプカードなど伝えたいことを入れたり、内側には買い物メモや緊急連絡先などを入れて、用途を使い分けることも可能です。
⑼ ストラップでつながる
 カバンやベルトと財布をつなげられるリングをつけています。紛失の心配を軽減のためにストラップを付ければ、カバンから取り出す際に、ストラップを手繰って財布を取り出すことができてとてもスムーズです。



最後に

今回、財布は完成しましたが、認知症の症状はさまざまであり、今回の財布だけで解決するとは思っていません。けれど、今まで認知症の人が使う前提の商品がなかったなかに、新しく世の中にある、というだけでも違うと思うのです。
例えば、男性用の服、女性用の服、子ども用の服など、お店で売っているだけで、男性も女性も子どもも社会にいるんだなということが多くの人に伝わると思います。
その商品があることで、認知症の人自身が、普通に近くで暮らしていることを、誰もが知る世の中になればいいなと願っています。

他の病気でも、障がいがあったとしても、自分のできることまで奪われずに暮らしていける社会を作っていくことが、このプロジェクトのゴールです。
今後も、誰もが暮らしやすい社会の実現に向けて、nihoは歩みを続けていきたいと思います。

これからも、応援していただければ幸いです。この度は、皆さま本当にありがとうございました!




イベントの最後に、参加いただいた皆様に協力に応援メッセージを頂戴しました。
認知症の人の買い物をめぐる風景がどんなふうに変わったらいいかのご提案、応援メッセージ、本当にありがとうございます!

今回の財布開発をきっかけに、社会で現在見えていない多くの「気づきや課題」が外に出ることが私たちの願いです。
今後ともどうぞよろしくお願いします!!